事例紹介

株式会社今野製作所事業内容:油圧機器事業、板金加工事業ほか
従業員数:40名
所在地:東京都足立区扇1-22-4

株式会社今野製作所

開発品 Smart Dolly

作った製品

下肢障がい者用の手動運転補助装置
「SWORD(ソード)」を開発

今野製作所の主力商品は、自社ブランドの油圧爪付きジャッキである「イーグル」シリーズだ。重い設備などの搬送・据え付け、鉄道保線などに使われており、この分野では国内シェアの約70%を占める。また、板金加工も手がけている。

そんな同社が初めてチャレンジ道場で手がけたのは、運転補助装置の「SWORD(ソード)」。SWORDは手だけを使い、ハンドルはもちろんアクセル・ブレーキまで操作できる機器。最大の特徴は、さまざまな自動車に着脱できる点。自動車本体に特別な改造を施す必要がないため、下肢障がい者の方は家族所有の車やシェアカーなどをそのまま利用できる。

開発のきっかけは、ある展示会でSWORDの原案を考えていた、下肢に障がいを持っている人から声をかけられたこと。

「手動運転補助装置の市場はそれほど大きくありません。量産化が見込めないため、撤退する企業も珍しくありませんでした。だからこそ、当社のような中小企業が製品化を実現し、車を使って自力で移動したいと考えている方々の助けになるべきではないかと考えたのです」(代表取締役 今野 浩好氏)

代表取締役 今野浩好氏

代表取締役 今野浩好氏

新型SWORD(ソード)

新型SWORD(ソード)

道場参加の理由

難航していたプロジェクトを好転させたい

SWORDの開発が本格スタートしたのは道場に参加する前の2005年のこと。しかし、プロジェクトは難航した。
最大の原因は、原案を考案した人、ユーザー、設計者の思いが異なっていたことだ。

考案者の狙いは、『安価な製品を生み出し、多くの下肢障がい者が自由に移動できる世の中にしたい』というもの。
一方、ユーザーからは『各自の体の大きさや筋力に応じて調整できる機構がほしい』というご意見がたくさん寄せられた。しかし、全ユーザーの期待に応えられる機器にしようとすると、調整機構が複雑化してコストダウンが難しくなる。

安全性も絶対に軽視できないため、良い製品を作りたいが、機能性と安全性を追求した結果高額になったら誰も買ってくれないというジレンマに陥り、今野社長や開発担当者は頭を抱えてしまっていた。
「そんなときに見つけたのがチャレンジ道場のパンフレットでした。製品開発の基礎を教わり、この難局を打開したい。わらにもすがる思いで、道場に参加しました」(今野氏)

「2007年に道場に参加して、SWORDは単なる運転補助装置ではなく、障がい者が仕事や旅行で移動する自信や楽しみを味わえる、つまり『豊かな経験価値』を提供する商品なのだと明確にできました。」(今野氏)

SWORDを自動車に取り付けた様子

SWORDを自動車に取り付けた様子

得られた知見

重大クレームを乗り越え
国内外で販売数を伸ばす

製品コンセプトが腑に落ちたことで迷いがなくなり、SWORDの開発スピードは加速した。2008年には東京都新製品・新技術開発助成金を得て、道場参加中の2009年に製品化が完了。
ただ、そこからの道のりは簡単ではなかった。リーマン・ショックと東日本大震災により、本格的な販売開始は先延ばしとなった。そして最大のピンチだったのが、2012年に起きた重大クレームだ。

「原因はSWORDの設計にありました。当社としては全く弁解の余地がなく、すでに販売していた全製品を回収したのです。当然、クレームをいただいたお客様にもお詫びに伺いました。その方は立腹されていたのですが、同時にこうも話されたのです。

『福祉関連機器は儲からないし、こうしたクレームがあるとメーカーはどうしても弱腰になりがち。そうして福祉事業から撤退した企業を、これまで私は何度も見てきました。私はSWORDのコンセプトに心から共感しているのだから、私のクレームでこの製品をやめないでくださいね』。

このお言葉は、胸に深く刻まれましたね。この一言があったから、今も当社はSWORDをはじめとする社会的事業を続けられているのです」(今野氏)

大改良を済ませて不具合を解消して以来、SWORDは国内販売数を伸ばしている。それだけではない。タイ、ミャンマーなどASEANにおける障害者支援の分野でも注目されているのだ。

多くの障がい者の可能性を広げたい

多くの障がい者の可能性を広げたい

2017年、再び道場に参加した。
これは売れるぞ、とわくわくした。

題材として選んだのは、機械などの重量物を運びやすくする「運搬ローラー」。当時の今野製作所は他社から仕入れた運搬ローラーを販売しているだけだったが、道場を利用することで内製化しようと決めたのだ。

「1回目の道場はとても有意義でした。ただ、SWORDプロジェクトに携わっていたのは私と一部のメンバーだけだったため、会社への好影響は限定的だったのです。もう一度、道場に参加してSWORDのときとは別の若手に経験を積ませれば、当社はもう一段ステップアップできるはず。そう考えました。」(今野氏)

当時の運搬ローラーは、30年以上にわたって変化のなかった成熟商品。今野製作所の仕入れ先も含めて5社程度が製造していたが、どの製品も似たり寄ったりだった。しかし、道場に参加した若手2人は大幅な改良を目指した。

「設計担当としては、従来品に対し『こんなにゴツくて重く作る必要があるのか?』と疑問を感じていました。設計を全面的に見直し、必要な強度を保ちながら大幅な軽量化ができれば、新たな価値を提供できるかもしれないと考えました」(技術本部技術部マネージャー 菅原知史氏)

「自社のオリジナル製品を開発するにあたって、他社製品との差別化が大きな課題でした。道場で開発を進めるうちに、他社にはない『唯一無二の商品』ができるかもしれないと感じたのです。これは売れるぞ、とわくわくしました」(営業本部企画開発営業部マネージャー 高橋博文氏)

道場再参加から約1年後の2018年、運搬ローラーの新ブランド「Smart Dolly(スマートドリー)」が完成。「5トンタイプ」の重量は19kgで、従来品に比べて46.5%も軽くなり取り回しがしやすくなった。また、安定性を高めたり全機種共通のウレタン車輪を採用して交換車輪のコストを下げたりするなど、画期的な新製品を生み出したのである。

重量物運搬ローラー「Smart Dolly」

重量物運搬ローラー「Smart Dolly」

Smart Dollyの開発担当者たち

Smart Dollyの開発担当者たち

会社はどう変わった?

開発力が飛躍的に向上!
3年間で10以上の新製品を発売

道場に2度参加したことで、今野製作所の新製品開発力はグンと高まった。道場参加前は10年間も新製品が出なかった時期もあったが、2017年以降は3年間で10以上の新製品を発売。また、Smart Dollyの初期製品はプロダクトデザイナーにデザインを依頼していたが、後期の製品は菅原氏が自らデザインを担当している。

道場参加の効果は、単に開発力が増しただけではない。製品開発に携わる経験は、社員に大きな刺激を与えているという。

「また、新入社員の中には『新製品づくりに挑戦するチャンスがあるから、今野製作所を選びました』と話す人も多いと聞きます。つまり、採用の際にも良いアピール材料になっているのです」(菅原氏)

道場修了後に開発した新製品のジャッキ

道場修了後に開発した新製品のジャッキ

今野製作所のチーム経営

今野製作所では数年前から、「ものづくりサービス業」への進化を図っている。縦割り組織をやめ、設計・製造・営業の各メンバーが1人ずつ集まって小規模なチームを結成。その上で、単なるものづくりではなく、顧客に経験価値を提供できる製品を作るという方針を打ち出しているのだ。道場に参加した際にもそうした考え方に基づき、設計・製造部門と営業から1人ずつ選抜してチームを組ませた。

チームでものづくりを進める社風は、着実に定着しつつある。例えば、高橋氏の所属していた営業部が「企画開発営業部」へと改組されたのは、そうした動きの一環と言える。

「当社営業スタッフの仕事は、単にモノを売ることだけではありません。お客さまのニーズを聞き、設計部門や製造部門と一緒になって新製品を開発する役割まで果たしています。『営業と設計・製造が一体となって成果を出す』という方向性は、道場での学びを通じて磨かれた気がしますね」(高橋氏)

道場に参加した菅原や高橋は管理職になり、社内の中核として活躍しています。彼らの後輩・部下は皆、部門の壁を越えて一緒に働くのが当たり前になっているんです。道場に参加したことは、組織変革のきっかけにもなったと感じますね。道場は当社に多くをもたらしてくれました。参加して本当に良かったと、私は胸を張って言えます」(今野氏)

“力を合わせる力がある”をコーポレートメッセージに

“力を合わせる力がある”をコーポレートメッセージに

高橋氏と菅原氏とともに今野製作所をひっぱるメンバーら

高橋氏と菅原氏とともに今野製作所をひっぱるメンバーら

取材後記

新製品開発を継続できる会社になった、と今野社長。菅原氏と高橋氏の「これは売れるぞ、とわくわくした」というコメントにもあった通り、開発チームが“製品開発の手応え“のようなものを感じながらものづくりに取組む様子が伝わってきました。道場に2度参加され、「世の中に必要とされるモノを作って売る」という経験を社員の方が共有しているからこそ、成せる業なのだと感じました。(2020年8月取材)

文章/白谷 輝英
撮影/平山 諭

SWORDの使い方イメージ

会社概要

参加者名 技術本部技術部マネージャー 菅原知史氏
営業本部企画開発営業部マネージャー 高橋博文氏
(2回目の参加者)
経営者の参加なし
資本金3020万円
TEL03-3890-3406
FAX03-3856-1740
URLhttps://www.konno-s.co.jp/