列真株式会社事業内容:半導体・液晶レーザー検査装置の製造及び販売
従業員数:16名
所在地:東京都品川区東品川4-12-4 品川シーサイドパークタワー7階

開発品 LODAS-mini

技術以外に製品開発のノウハウが必要だった
列真の代表取締役である張 東勝氏は、2014年まで大手電機メーカーの電子回路エンジニアとして勤務。液晶パネルのガラス素材表面にある傷などを検査するレーザー検査装置の開発を手がけていた。
「既存のレーザー検査装置は大型で高価だったため、導入できるのは大手企業などに限られていました。また、厚みのあるガラス基板を検査するときは表と裏の双方に検査機を配置する必要がありましたし、基板内部が検査できず目視による検査が欠かせない点も課題だったのです。これらを解消した機器をつくることができれば、中小企業やベンチャー企業などにも導入していただける。そう考え、2015年に列真を創業しました」(張氏)
創業直後の列真は張氏1人だけの企業だった。張氏には高い技術力があり、つくりたい製品のイメージも固まっていたが、営業力や販路は持ち合わせていなかった。
「まずは自力で製品作りをしながら顧客開拓に取りかかったのですが、いろいろな企業にメールを送ってみても返事はゼロ。このままでは、製品が完成しても売る相手がいないと焦りました。会社員時代なら、営業やマーケティング、デザイン部門などの同僚に助けてもらえましたが、独立したらすべて自分でやらなければならないと痛感したのです」(張氏)
悩んでいる時、救いの手となったのがチャレンジ道場だった。張氏が助成金の情報を得ようと東京都中小企業振興公社のホームページを見たとき、道場の事業内容を偶然目にしたのだ。製品開発だけでなく、マーケティングやデザイン、販売といった一連の流れをすべて学べる点に魅力を感じ、2015年、張氏は道場に入門した。

代表取締役 張東勝氏

特許申請や販売代理店との
契約締結でも支援を受けた
道場での学びは、決して楽ではなかったと張氏は振り返る。
「この種のセミナー・講座に参加した経験は、それまで一度もありませんでした。また、講座ごとに出される課題も簡単ではなく、最初の頃は『きついなあ』と感じていましたね。ただそれだけに、たくさんの事柄を吸収できたと思います。当時は製品開発以外の仕事はしていませんでしたから、勉強の時間をしっかり確保して道場に臨んでいました」(張氏)
張氏が道場でテーマに取り上げたのは、もちろんレーザー検査装置。従来製品より多少精度は落ちるが、安価で小さく、短時間で検査できる機器をつくることにした。こうすることで、中小企業や、研究予算の少ない研究開発部門でも導入でき、新たな市場を開拓できると考えたからだ。
道場参加中の2015年11月、張氏は「1回のレーザー照射で厚みのあるガラスの表・裏面と内部を測定可能な技術」で特許を申請。翌年には見事に取得を果たした。
「このときは、当社まで足を運んで特許取得へのアドバイスをしていただいたことが役立ちました。この特許は2017年の『発明大賞』で奨励賞に選出。競合との差別化を図る上で、本当に大きかったと思います」(張氏)
また、試作品がある程度完成し、他社から商談が持ちかけられるようになってからは、販売体制の構築や、販売代理店との契約締結などの面でも支援を受けたという。
「製品やサービスの価格はどうするか。顧客に対してどんなメンテナンスを行うか。代理店との役割分担者をどうするのか……。他社と契約する際には、そうした細かい部分まで事前に決めなくてはなりません。しかし公社から支援を受けられたため、なんとか契約書をまとめることができました」(張氏)

BtoB製品にも
デザインが大切だと知った
道場で師範などから厳しく指摘されていたのは、装置のデザインだ。張氏にはデザインの知識がなかったため、初期の試作品は無骨な外見だったという。
「はじめは、『殺風景な工場や研究室で使われるのに、どうしてそんなにデザインを気にしなければならないのだろう』と思っていました。でも後年、実際に工場を見たとき、デザインに工夫を凝らした当社の製品は大きな存在感を放っていたのです。人は見た目の印象に大きく左右されますから、良いデザインにして工場で働く人々に注目してもらうのは必要だったと理解できました」(張氏)
張氏は開発した製品に、「レーザー式卓上型パーティクル検査装置 LODAS-mini」という名前をつけた。
「当初の重量は150kg程度だったのですが、道場で紹介された専門家の方に助けていただき、60kg程度まで軽量化。工場にはぎっしりと設備が並んでいるので、大きな機器だと入りません。小型化に成功したことで導入してもらえる可能性は高まりました。また、他の専門家の支援も受け、デザイン・ソフトウエアの面でも改善を繰り返したのです」(張氏)

レーザー式卓上型パーティクル検査装置 初号機

小型軽量化、デザイン、
ソフトウェア改善後の現在の検査装置

必要な知識を一通り学び
独力で新製品を作れるように
LODAS-miniの販路を拡大する上で最も有効だったのは、展示会だった。張氏は国内外の展示会に試作品を出展。単独出展だけでなく、道場参加企業として事業化チャレンジ道場のブースで共同出展をしたこともあった。
「最初は資金がなかったので、自分でトラックを運転し、重い機器を展示会場に運び込みました。荷台に上げるとき、試作品を載せていた木の台が割れて肝を冷やしたこともあります(笑)。お客さまへの説明も、当然、自力でやりました」(張氏)
業界関係者が集まる専門展示会では、大きな反応が得られた。2017年にはある企業に試作品を貸し出すことになり、後に正式導入が決まった。試作品貸出の話が決まったのは、まだ道場に参加していた頃。張氏が報告すると、道場のプロジェクトマネージャーは大喜びしたという。
張氏は現在、導入先企業から得たフィードバックをもとにさらに改善を加え、より顧客のニーズに対応した検査装置を作っている最中。また、検査の多くの部分を自動化し、効率よく検査を行うことが可能な新機種の開発にも取り組んでいる。売り上げの増加に伴い、社員数も5人に増やした。
「SWOT分析などを使って自社の強みを見極められるようになったこと。展示会に出て販路を広げること。ものづくりには技術だけでなく、デザインも重要であること。どれも、道場に参加しなければわかりませんでした。まだまだ発展途上ですが、道場で学んだことを生かし、今後も頑張っていきたいです」(張氏)

展示会での思い出のパネル

張社長は、製品のデザインについて当初は重要視していませんでしたが、事業化チャレンジ道場に参加し、顧客目線で製品を作る中で、デザインの重要性に気付くようになりました。同社は、道場修了後、社員数も拡大し、新機種の開発にも取り組むなど、ますます今後の成長が見込まれます。「新製品はすぐにヒットしない。3~5年の発酵期間が必要。その後長く続く製品となる。」という張社長のお話が印象的でした。(2020年9月取材)
文章/白谷 輝英
撮影/平山 諭
道場修了後の取組み

ミドルレンジ検査装置のスタンダードへ
「私たちにとってはプラスの流れでした。」と振り返るのは、列真株式会社代表取締役の張東勝氏。
ここ数年、政治・経済的な「デカップリング(国や地域間の投資や通商を規制で阻害し連動させない動き=経済分断)」は、様々な産業分野に影響を及ぼしている。とくに安全保障に深く関わる半導体分野への影響は顕著だ。
当社が事業化チャレンジ道場を卒業した同じ2018年、第一次トランプ政権下で米中間の「貿易戦争」が勃発、その後半導体関連など先進技術の輸出規制が行われ、中国は対応を迫られる事態となった。この頃から業界の上流である半導体材料分野への参入を試みていた中国をターゲットに、レーザー検査装置の売上を伸ばしてきたからだ。
当社は2019年に、数億円規模の大型レーザー検査装置を国内業界大手から受注。それと並行する形で進めてきたのが、LODASシリーズに代表されるローレンジ、そしてミドルレンジの検査領域にターゲットを絞った製品市場の開拓だった。
「2台目の大型検査装置納入後に、海外から半導体用フォトマスクの検査装置を作れないかという話がありました。その頃、中国でもフォトマスク原板の開発が進められていましたが、結晶技術、そしてその表面を研磨する技術というのはとても難しい。10年単位でかかると言われていました。それで当社の0.1μ〜0.2μといったミドルレンジの検査装置のニーズが高まっていたのです。」(張社長)
業界大手への検査装置納入により製品の信頼性が高まり、またその資金をもとにした積極的な製品展開が、会社の成長を後押しすることになった。その結果、2022年度の売り上げが前年度比で4倍と急成長し、2023年には増資を行い、生産拠点としての長野工場も設置する。
「中国でのミドルレンジの検査機器では、うちの製品が業界のスタンダードになりつつあります。中国、台湾、そして韓国でも、レーザー検査技術を使った検査装置が少ない。しかもガラスに特化しているところもなかったのです。」(張社長)

道場修了後を振り返る張社長

現在主力の検査装置 LODAS-A150

運を呼び込む継続したアクション
会社の業績だけをみると、純風満帆のようにみえる列真株式会社だが、ここまでの道のりはけっして平坦ではなかった。
「工業用の検査装置というのは、『はい作りました』といって売れるものではありません。販売先の相手企業がお客様に納入する製品そのものを検査するわけですから、ものすごく高い信頼性が求められる。どこの誰が作ったかもわからない製品は売れません。買う勇気がないと思います(笑)。」(張社長)
エンジニアとしてのモノづくりには自信があったが、売ることに関しては大きな不安があったという。そのような時期、事業化チャレンジ道場で、製品開発から販売までの一連の流れを学ぶとともに、参加中に申請した「1回のレーザー照射で厚みのあるガラスの表・裏面と内部を測定可能な技術」で特許を取得。また2017年には発明大賞(公益財団法人日本発明振興協会、日刊工業新聞社主催)で「奨励賞」を受賞するなど、会社の基幹技術がこのときに形作られることになった。
「賞をもらったことが私自身の自信になりましたし、取引相手先の大手企業からすると、特許を取り、賞をもらったというのは、信頼性という面で非常に大きかったのかなと思います。」(張社長)
しかし、その技術が製品として結実し、売れるのは特許取得から2年後のことだった。
「時間がかかることは最初からわかっていました。自分の強みを最後まで信じてやり通すこと、それが大切なのだと思います。あとは運ですね。長く持続してやることで運にも巡り合える。」と笑うが、もともと創業時の経営的に厳しいときには、検査装置のメンテナンス業務を行うことでしのいでいたため、顧客の顔がよく見えるのだろう。かつて、1台しかない試作機を商談先企業に半年間貸し出したときも、その貸出先の企業から出される課題について、一つ一つ地道に取り組み、ブラッシュアップを重ねていった。
「全国あるいはアジアのどこかで、今この瞬間もわが社の装置が稼働しています。何かあったらすぐに飛んでいけるよう、24時間対応の気持ちで取り組んでいます。」(張社長)
事業化実践道場でプロジェクトマネージャーが本社に訪問したとき、朝10時の約束の時間に少し遅れてきた張社長は息せき切って、「新潟のお客様のところに昨夜行って、今朝何とか戻ってきました!」といった逸話は、何事にも誠実に取り組む張社長の姿勢を如実に表している。
展示会に積極的に参加し、試作機を無償で貸し出し、そのフィードバックをまたこつこつと製品開発に活かす。
運が良かったと話す経営者は多くいるが、その運を呼び込むための継続的な行動、アクションがあったことを忘れることはできない。

従業員と打ち合わせをする張社長

同一経済圏のカップリングという流れ
半導体業界は今、潮流が変わりつつある。「これからの半導体業界は、国内・同一経済圏毎の“カップリング”が進みます。日本で急に熊本、北海道で生産工場が新設されたのもその流れです。」(張社長)
売り上げ全体の実に8割を占めていたという海外マーケットの先行投資熱がひとまず落ち着き、今後は国内がターゲットになるという。また需要が着実に見込まれるもうひとつの理由が、検査装置の更新需要だ。
「日本の大手メーカーも、以前は原板生産の中間検査に必要なミドルレンジの検査装置を作っていて、今でもその装置が世界で使われているのです。ただ、そのサービスが完全に終了するという時期にきています。25年前のテレビ、冷蔵庫を使い続けますか?という状況ですね(笑)」(張社長)
このような特需とも言える状況を逃さないために、研究開発は東京本社に集約し、生産拠点となる長野工場を順次拡充していく予定だ。
ただ、これまでのようなハイペースは慎むという。「直近の数年は、倍々ゲームのように売り上げを伸ばしてきました。受注残もまだかなりあります。ただ社内の体制づくりや技術面の強化をしなければならない時期だと考えているので、これからは少しペースを落とします。」というから、すでに張社長の手綱は次の数年先を見据えているようだ。

研究開発は東京本社に集約

2023年に新設した長野工場

自社の強みを活かし目指すオンリーワン
「結局、列真にはレーザー検査技術しかない。最近よく言っているのは、T字型の会社を目指すということです。縦の線はレーザー検査技術、それを深く掘り下げていくこと。そして横の線は、その技術の応用です。半導体・液晶用のフォトマスク、300mmガラスウェハ用の検査装置などの応用範囲を広げていくことですね。」(張社長)
日本国内で液晶が下火になりだした頃、ひとりのエンジニアとして、レーザー検査技術は必ず生き残ると信じ、研究開発を続けてきた張社長。中小企業だからこそ戦えるマーケットがあると断言する。
「優秀な人材も少ないし、大きな財力もない。大切なのは自分たちの一番強いところでオンリーワンを目指すということだと思います。レッドオーシャンに行ってはだめ、ブルーオーシャンを目指すべきです。コアの技術を持って、花を咲かせるまでは、とにかく細く長く。そうすれば必ず何かに巡り合えると思います。私たちもまだまだベンチャーなのですから。」(張社長)
2024年末時点の社員数は16名、ひとりで事業化チャレンジ道場に参加してから約10年となり、時代の流れに乗りながら成長を続けてきた列真株式会社。現在の会社の姿も、趣味の登山になぞらえると「まだまだ二合目くらいですかね。」(張社長)という。
次の10年、20年でどのような姿になるのか、これからの活躍が楽しみだ。

「オンリーワン」を共に目指すという張社長

「ピンクのテープだったと思います」。事業化チャレンジ道場が、張社長にとってどのような経験だったのかという質問に対して返ってきたのがこの答えでした。すぐにはわかりませんでしたが、登山のときに木に結び付けられた道標のテープだということに気がつきました。登る方向を示し、迷ったときには辿って帰ってくることもできる。事業化チャレンジ道場の姿そのものと言うことができるのではないでしょうか。「道場は、今までこの道を多くの人が歩いてきたということを示してくれました。でも登るのは自分。ひとりで起業される方は、何かを持っていらっしゃる方々だと思います。自分の強みを信じて、とにかくやり通すことです。」(張社長)と力強く締めくくられました。(2024年12月取材)
文章/池田 雄悟
撮影/堀内 まさひろ
会社概要
参加者名 | 代表取締役 張 東勝氏 |
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経営者の参加 | あり |
資本金 | 5,000万円 |
TEL | 03-6451-4379 |
FAX | 03-6451-4469 |
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