事例紹介

株式会社ミューテック35事業内容:精密板金、金型製作・機械加工・塗装 ほか
従業員数:28名
所在地:東京都日野市日野台1-18-5

開発品 the BLOSSO

開発品 the BLOSSO

道場参加の理由

自社オリジナルの金属製の
昆虫オブジェを作るも販売には至らず

ミューテック35は1990年創業の、精密板金加工や機械加工、粉体塗装などを手がける企業。2007年に創業者だった父親が引退し、現在代表取締役を務める谷口栄美子氏と弟の松下憲明氏に代替わりしたとたん、リーマン・ショックがやってきた。

「受注が急激に減ったため、私はいろいろな企業に営業をしました。しかし、新規のお客さまから自社の強みを問われたとき、しばしば言葉に詰まることがあったのです。結局、『一生懸命に仕事をする』など、ありきたりな返事しかできませんでした」(谷口氏)

悩んでいる谷口さんに助け船を出したのは工場長だった。社員が遊びで作った金属製のセミのオブジェを差し出し、営業先に見せれば自社の技術をアピールできると伝えたのだ。

「精密で美しいオブジェを見て、当社には強みがあると改めて認識できました。同時に、これは事業にできると直感したのです。ただ、自社製品を作ろうと決断はしたのですが、具体的にどう動けばいいのかは見当がつきませんでした」(谷口氏)

まずは試しに昆虫型オブジェを大手雑貨店に持ち込んでみると、早速、良い反応があった。谷口氏は雑貨店側から要望を受け、製品のクオリティを高める努力を重ねたが、最終的には販売には至らなかったという。

「こちらの希望小売価格は4500円でしたが、雑貨店からは2000円にしてくれと言われました。これでは商売になりませんし、仮に無理して売っても、次がないと感じたのです。自社でものづくりをする地力を、しっかり磨かなければならないと痛感しました」(谷口氏)

代表取締役 谷口栄美子氏

代表取締役 谷口栄美子氏

工場長が製作したセミのオブジェ

工場長が製作したセミのオブジェ

道場での学び

道場師範からのアドバイスで、
開発への迷いが消えた

谷口氏がチャレンジ道場の存在を知ったのは、2014年のことだった。自社製品の開発に悪戦苦闘していた谷口氏にとっては、うってつけの助け船。すぐに参加を申し込み、谷口氏とものづくりが好きな女性パート従業員の2名で参加することになった。

こだわったのは、他社がまねできない美しい製品だ。ミューテック35が持つ繊細な絞り技術を使い、金属が秘める美しさを最大限引き出した工芸品を作ろうと考えた。

「当社は経営理念を見直し、『ものづくりの知恵と高度な技術で、世界に誇れる日本の工業界に貢献する』と打ち出していました。しかし道場に参加するまでは、何が日本らしさなのか明確にできていなかったのです。」そこで道場の師範に相談したところ、『高品質だって日本らしさじゃないかな』と即答され、谷口氏は衝撃を受けた。

「ものづくりの仕事は、人件費の安い海外企業に奪われつつあるが、海外企業にまねされないほど質の高い製品を作れば勝負できる。」そう考えられるようになってからは、迷いが一切なくなったという。

セミのオブジェは一枚板からつくりあげる

セミのオブジェは一枚板からつくりあげる

一枚板でつくる蝶

一枚板でつくる蝶

手がけた製品

金属の美しさを生かしたアクセサリー
「the BLOSSO」

道場で製品化を目指したのは、金属で作った花のオブジェだった。

「金属には、無機質で冷たいイメージがあるかもしれません。でも、細かいヘアライン(髪の毛のように細い線を入れ光沢を出す仕上げ方)を入れるなどして加工すると、素晴らしい輝きを放つのです。当社ではニューカレドニアから運んだ赤土から精製されたニッケルを使ったステンレスを加工して花びらを作り、花びらにメッキ処理や焼き入れをするなどして鮮やかな色が出るよう工夫しました」(谷口氏)

ミューテック35は道場参加中の2015年、金属製のバラを作って「たま工業交流展」に出展。会場で1本の花がポロリと落ちてしまったとき、谷口氏にひらめきが起きた。落ちた花を磁石でジャケットに留めブローチにしたところ、バイヤーをはじめとする来場者から大好評を博したのだ。自信を得た谷口氏は、磁石で留めるタイプのブローチをいくつか試作し、「国際フラワーexpo 2016」に出展した。

同社は営業の一環で、以前から展示会には何度も出ていましたが、そのときに同業者がたくさんいる展示会に出ても埋もれてしまうと感じた。そこで、プリザーブドフラワーがメインの展示会にあえて参加。最初は『板金業の会社が出る展示会ではありませんよ』と断られたが、いざ出展してみると、同社のブースにはたくさんの人が押し寄せた。

道場参加からわずか1年半後の2015年11月、ブローチやイヤリングなどの製品群が完成した。ブランド名は、「the BLOSSO」。百貨店や自社サイトで売り出すと、予想を上回る反響があった。

「大手百貨店の催事場で販売したときは、隣のお店から『わずかの期間でこんなに売り上げるなんて!』と驚かれました。また、the BLOSSOは売り上げだけでなく、社員のモチベーションアップにも貢献しています。先日は男性誌でも取り上げられ、社員の家族が偶然目にして喜んでいたと聞きました」(谷口氏)

金属の美しさを生かしたアクセサリー「the BLOSSO」 国際フラワーexpo出展の様子

国際フラワーexpo出展の様子

会社はどう変わった?

新事業部を立ち上げ、女性メンバーを活用。
製品を続々と生み出すようになった

ミューテック35は、the BLOSSO の販売開始と同時に「クラフト事業部」を新設。ステンレス製の名刺入れや鏡など、新製品を続々と生み出している。

「道場の同窓生のなかには、製品を生み出さないまま(事業化しないまま)終わる企業もあります。でも、それではもったいない。せっかく取り組んだのですから、なんとか製品を完成させてほしいと思うのです。たった1つでも自社製品を作れると、社員は誇りを持てますし、会社は大きく変わりますから」(谷口氏)

製品化を実現するために、経営者が自ら道場に参加すべきと言うのが谷口氏の考えである。また、道場には女性メンバーを加入させる方が良いともアドバイスする。

「人口の半分は女性なのですから、消費者に近い女性の意見を取り入れなければ良い製品など作れません。道場に参加するなら、どんな人でも良いから女性をチームに加えると、多様な視点でものづくりに当たれると思います」(谷口氏)

今後は、the BLOSSOの海外展開も視野に入れていると谷口氏。
今、東京都中小企業振興公社国際事業課の支援を受け、デザイン力をさらに磨き、世界で通用するブランドに育てるのが夢だという。

女性メンバーが手作業でつくるBLOSSO

女性メンバーが手作業でつくるBLOSSO

取材後記

「BLOSSOはアクセサリーとしてお顔の近くにつけていただくものでもありますので、慎重に検品をしています」という谷口氏。匠の技と、女性ならではの細やかな気配りに裏打ちされたBLOSSOは、生き生きとした笑顔の未来に貢献するという経営理念を体現した製品であると感じました。自社技術でどのように市場に価値を生み出していくことができるのか、現在もチャレンジを続ける当社のこれからが楽しみです。(2020年10月取材)

文章/白谷 輝英
撮影/平山 諭

会社概要

参加者名 代表取締役 谷口 栄美子氏
他1名
経営者の参加あり
資本金1700万円
TEL042-586-0411
FAX042-581-8505
URLhttps://myutech35.co.jp/