事例紹介

株式会社COAROO事業内容:コアルーバッグの企画・生産・卸・販売/ライセンス事業
従業員数:1名
所在地:東京都武蔵野市吉祥寺本町2-34-12

開発品 コアル―バック

開発品 コアル―バック

起業までの経緯

バッグ用の「コアルーベルト」の商品化を決意し起業

COAROOの創業者である池 成姫(チー・ソンヒ)氏は、特許翻訳や通訳の仕事をしつつ、結婚して仕事と子育ての両立で多忙な日々を送っていたが、2007年、突然、起業の種を見つけた。

「当時はバッグに対し、大きな不満を感じていました。子育てをすると荷物が増えますから、バッグは常に荷物でいっぱい。斜めがけタイプのバッグは肩や首に食い込み、痛くてたまりませんでした。ショルダーバッグも試しましたが、私はなで肩ですぐにずり落ちてしまいます。一方、リュックサックは荷物を出すたびに上げ下ろししなければなりませんし、背中が熱くなって不快に感じることがありました。もっと自分にあったバッグはないのかと、常に探していたんです。」(池氏)

そんなある日、友人が1本のおんぶひもで子どもを負ぶっている姿を目にして『たった1本のひもなのに。これが日本の知恵か!』と池氏は衝撃を受けた。同時に、「このやり方を応用すれば、バッグ用のベルトが作れるのではないかとひらめいたのです」(池氏)

池氏は2007年12月、現在の「コアルーベルト」の元となる特許を出願。当初は特許の権利をどこかの企業に売ろうと考えていたが、手を挙げてくれる企業はなかなか見つからなかった。そこで自ら商品化を決意し、2010年にCOAROOを設立した。

代表取締役 池成姫氏

代表取締役 池成姫氏

バッグ用の「コアルーベルト」の商品化を決意し起業 バッグ用の「コアルーベルト」の商品化を決意し起業
道場参加の理由

「ビジネスデザインそのものを学べる場」を探していた

コアルーベルトは、2本のベルトをパッドの付いた「渡り」でつないだ仕組み。これを使った「コアルーバッグ」は「渡り」部分を動かすことで、ショルダーバッグ・2種類のリュックサック・前抱えバッグ・メッセンジャーバッグの5スタイルで使い分けできる。このアイデアは高く評価され、いくつかの賞を受賞。ライセンス契約を申し出てくれる企業が現れて、池氏と一緒にものづくりを行うようになった。だが、期待したほどの製品はできなかったと池氏は振り返る。

「当時の私は、ものづくりの経験もバッグ業界の知識も不十分でした。それで協力会社に期待していたのですが、その企業は他業界のものづくり企業で、バッグの市場や消費者ニーズについてよく知らなかったのです。」

池氏はコアルーバッグを売ろうと、さまざまな企業やイベントに足を運んで営業した。その中で、デザインや品質をさらに改良しないと厳しいという多くの意見を受けたため、協力会社に相談したところ、『値段を抑えないと製品は売れない。そして、この値段ならデザインも機能もこれ以上改善できない』と言われてしまった。

このとき、池氏は悟ったという。ビジネスで成功したいなら、製品を作るだけでは不十分。どんな顧客にどんな価値を提供するか、どんな企業と連携しどのように協力してもらうか、デザイナーや一般消費者に自社製品のコンセプトをどうやって伝えるかといった「ビジネスそのもの」をデザインする必要があるのだ、と。

「私はずっと、ビジネスデザインを学べる場を探していました。すると、かねてから付き合いのあった東京都中小企業振興公社の担当者からチャレンジ道場の存在を聞かされたのです。話を聞き、迷わず参加を決めましたね」(池氏)

1号(中厚地の生地を使用、ベルトの調整部を隠す)

1号(中厚地の生地を使用、ベルトの調整部を隠す)

2号(薄地の生地を使用、ベルトの調整金具を変更、ベルトにクッション材)

2号(薄地の生地を使用、ベルトの調整金具を変更、
ベルトにクッション材)

3号(ベルトの調整金具を変更、開口部の形を変更 等)

3号(ベルトの調整金具を変更、開口部の形を変更 等)

道場での学び

安易な妥協をせず、こだわり続けることを学べた

池氏が道場に参加したのは2015年。手がけたのは、アクティブシニア(さまざまなことに意欲的・活動的な高齢者)向けのバッグだ。東日本大震災以来、高齢者が持ち歩く荷物の量は増えていると池氏は感じていたが、体力が落ちぎみの高齢者にとって重すぎるバッグは負担が大きい。そこで、収納性が高く、かつ、軽くて持ち運びやすいバッグを提供すればお年寄りの役に立てると考えたのだ。

「今のお年寄りは目が肥えていますから、ごまかしがききません。そこで、道場のインストラクター役であるデザイナーさんに支援していただき、新しいバッグをつくりました。このときに大変だったのが、デザイナーさんに当社のバッグの本質を理解していただくことです。」と池氏。自身の頭の中にあったコンセプトを具体的な言葉として表現し、デザイナーなどときちんと共有することで、はじめて価値のある製品がつくれるのだと道場で池氏は学んだ。
道場の師範からは、ときに厳しい指導を受けた。中でも記憶に残っているのが、ものづくりを進める中で安易に妥協するなという言葉だ。

「アイデアを実現できるまでには無数の階段がありますが、その中で安易な妥協を重ねるほど製品の総合点は低くなるのです。お客さまの前では、作り手は裸。妥協すれば、すぐに見抜かれます。そこで師範は、安易な妥協ではなく、別の解決方法を見つけるよう戒めてくれたのだと思います。

道場で学んで、『コアルーバッグは私のビジネスだ』とはっきり自覚することができました。私がアイデアを出し私が作るモノなのだから、絶対に人任せにしてはいけない。あくまでも自分が主体となり、良いモノに仕上げようとこだわるべきだと思えたのです」(池氏)

コアルーベルトがバックの核

コアルーベルトがバックの核

得られた知見

経営者自身が参加することで気づきが得られる

道場でビジネスデザインのやり方を学んだことも後押しし、コアルーバッグの売り上げは大きく伸びた。2020年2月に通販専門番組に登場した際には、番組終了までに約1000個を完売。好評を受けて同年8月に再登場したが、このときは2000個以上を売り上げた。番組担当者からは、次回はさらに商品を増やそうと提案されているという。

「通販専門番組で販売したのは、道場で開発したバッグをもとに改良を加えた製品です。従来製品の機能性を生かしたまま、通販のユーザー層に合わせてエレガントさを加えました。さらに、めがねや筆記用具を入れられるポケットを用意するなど、シニアから寄せられた要望を製品に盛り込んだ点が受けたのだと思います」(池氏)

道場に参加するからには、きちんと製品作りに取り組んでほしいというのが池氏の意見。実際にものづくりを行うことで、新たな気づきがたくさん得られると強調する。

「参加企業の中には道場を単なる研修やセミナーだと捉え、1年目の『売れる製品開発道場』だけで終えてしまうところもありました。でも、それはもったいないと思うのです。100点満点で10点しかもらえないような試作品でも、何か作った方が絶対にいい。
失敗ほどビジネスに役立つものはありません。苦労して製品を形にし、お客さまに見ていただいてご意見をいただくことで、企業はたくさんのノウハウ、情報を得ることができます。できれば経営者自身が道場に参加し、実際に手と頭を動かしてほしいですね。そうすれば、企業は大きく変わることができるというのが私の実感です」(池氏)

コアルーバック専門ショップ

コアルーバック専門ショップ

取材後記

製品化に至るまで何度も試作をし、その都度ユーザーから得た生の声を反映させて改良を重ねてきたという池氏。「失敗こそ、チャンスです。それがビジネスの醍醐味ですよ。」という言葉には、非常に重みがありました。道場参加で培ったビジネスそのものをデザインする力を武器に、今後は女性向けのビジネスバッグを作りたいと語る池氏の輝く笑顔が、とても印象的でした。(2020年10月取材)

文章/白谷 輝英
撮影/平山 諭

会社概要

参加者名 代表取締役 池 成姫氏
経営者の参加あり
資本金1,275万円
TEL0422-27-6328
FAX0422-27-6329
URLhttps://coaroo.co.jp/