日本電波株式会社事業内容:一般産業用機器の開発・設計・製造・販売
従業員数:100名
所在地:東京都大田区多摩川2-15-12
開発品 MediRack-ioT
OEM生産から自社製品づくりに挑戦
日本電波は、通信機や工業用刺繍ミシン、ガソリンスタンドの給油機といった各種機器の制御装置を設計・開発・製造している企業だ。同社がチャレンジ道場に参加したのは2016年のこと。当時開発部長だった星野宣貴氏(現・取締役)が、部下から道場の存在を聞かされたのがきっかけだった。
「当社がOEM生産を手がけている業界の中には、成長が頭打ちになっているところもあります。そのため、このまま受託業務だけをやっていては、いずれ行き詰まるのではという危機感を持っていました。そうしたなか、部下から『チャレンジ道場に参加しては?』と提案され、これは是非参加したいと考えたのです」(星野氏)
参加メンバーは星野氏に加え、若手のハードウェア開発担当者と営業担当者、そして、筐体などの設計を手がける「機構設計」担当の池下貴裕氏の合計4人。中心的な役割を果たした池下氏は、自社製品を作るプロジェクトに参加できると聞いて、心が躍ったという。
「当時、私は大きなプロジェクトが一段落したところで、時間的に余裕がありました。そんなときに道場の参加案内が来て、私はすぐに手を挙げたのです。新しいことに挑戦できること。そして、お客さまから依頼された製品ではなく、自社でものづくりを進められることを聞いて、わくわくしましたね」(池下氏)
取締役 星野宣貴氏(右)と開発部部長 小原一洋氏(左)
道場参加半年後の方針転換時に、
自らの成長を実感
道場に参加したばかりの頃は、戸惑うことが多かったと池下氏は振り返る。
「それまで私は、お客さまからいただいた仕様書に沿って製品をつくるというやり方しか知りませんでした。ところが道場では、人々の困りごとを解決する製品を作る、つまり『コトからモノ』という考え方を教わったのです。われわれの『モノ優先』の発想とは正反対で面くらいましたね。また、講義で出てくる言葉にも知らないものがたくさんあり、最初の頃はついていくのがやっとでした」(池下氏)
道場で最初に検討したのは、自社が得意とする無線技術を生かした製品だった。例えば、高齢者や児童の活動データを無線通信で送信し、見守りを可能にする機器などを考えていたという。しかし、この分野ではすでに多くの製品が登場していてレッドオーシャン。思い悩んでいたとき、参加メンバーの一言がターニングポイントとなった。
「当時はなんとかして新製品のアイデアを出そうと、参加メンバー全員でネタ探しをしていました。そして道場参加から半年ほどたった頃、メンバーの1人がこんな話をしたのです。『少し離れたところに住んでいる祖母が、毎日たくさん薬を飲んでいるんだ。母が祖母に電話を入れ、飲み忘れがないか確認しているんだけれど、やっぱり手間がかかる。それに、本当は飲んでいないのに飲んだと返事をされることもあるんだよね……』。これが、新製品作りの大きなヒントになりました」
チームはこれまでのアイデアをすべて捨て、「高齢者の服薬を支援する機器」の開発に切り替えた。そして、次回講義までの2週間で発表資料をまとめた。
「本業のかたわら、短時間で資料を作るのは大変でした。でも、なんとか形に仕上げることができたのです。道場で半年間鍛えられたおかげで、成長できたんだなあと実感したのを覚えています」(池下氏)
「機構設計」を担当した池下氏
薬の飲み忘れを防ぐ
「服薬支援装置 MediRack-ioT」
星野氏や池下氏らが開発したのは、「服薬支援装置 MediRack-ioT(メディラック・アイオーティー)」。最大で60日分の薬を保管できる装置で、薬を飲む時間になると音と光で知らせ、さらに服薬の状況をEメールで通知する機能を持つ。コンセプトは、「高齢者が介護者や支援者の手を煩わせることなく、自分で使いたくなる服薬支援装置」だ。
「試作1号機では薬の収納スペースを、『朝・昼・夜・寝る前』の4つに区切っていました。しかし、2018年の『おおた工業フェア』に出展して来場者の話を聞いてみると、ほとんどの人は朝・昼・夜の3回に分けて薬を飲んでいることが分かったのです」(池下氏)
池下氏はそれまで、開発部門の同僚や外部の加工業者などと一緒に仕事をすることが多かった。一方、一般の消費者と直接ふれあう機会はほとんどなかったという。
「エンドユーザーのご意見を聞けたのは、本当に貴重な機会でした。中には厳しいご意見もあったのですが、それらを試作2号機に盛り込めばさらに良い製品が作れると前向きに捉えていました。そして、多くの人から高評価をいただいたことが自信になり、開発のモチベーションがさらに高まりましたね」(池下氏)
モックアップと1次試作
「服薬支援装置 MediRack-ioT」
新商品検討の思考の流れと
プレゼン能力が身についた
道場参加当初は時間的な余裕があった池下氏だったが、途中からは本業が多忙になってきた。しかし、なんとか時間を捻出し、月に40~50時間程度かけて課題に取り組んでいたそうだ。
「定時になるとメンバー同士で集まり、1時間以上かけて話し合ったり課題に取り組んだりしていました。決して負担は軽くありませんでしたが、それだけに多くの事柄を学べたと思います。座学だけだと、表面的な理解だけで終わってしまう危険性がありますが、道場では自社製品の開発という実践を通じて学べたため、深いところまで理解が進んだのではないでしょうか」(池下氏)
身についたのは製品開発の能力だけではなかった。プレゼンテーション能力も大きく伸ばせたと池下氏は語る。
「道場では、たくさんの同窓生と一緒に講義を受けます。このとき、他社の発表や資料を見たことが勉強になりましたね。『こう話す方が伝わりやすい』『資料は文字だけではなく、図やイラストを入れる方が説得力が増す』など、多くの気づきを得られました。その結果、社内プレゼンテーションなどで褒められることが増えましたし、後輩を指導する際にも役立てられています」(池下氏)
服薬時間になったら音と光でお知らせ
修了後、すぐに2回目の道場参加。
自社開発の継続を目指す
道場での学びとMediRack-ioTの製品化を通じて得られたノウハウは、道場参加メンバーによってマニュアル化され、社内で共有された。その結果、会社全体の雰囲気は変わりつつあるという。
「以前の当社ではOEM製品がほとんどで、自社製品の売り上げはごく限られていました。自社独自の新製品を作る機運も、それほど高くはなかったのです。ところが今は、開発部の全メンバーが新製品作りのため、積極的にアイデアを出しています。その中から3件程度は、試作の段階に入っていますね」(池下氏)
経営層の側も、手応えを感じているようだ。
「1回目の道場は2019年に修了しましたが、2020年からは別のメンバーで2回目の参加。当社は今後、新製品に力を入れると宣言していますので、道場でさらに学んで開発を加速させたいと考えています。
道場修了から間がありませんし、MediRack-ioTの販売も本格化したばかり。ですから、『会社が変わった』と言い切るところまでは達していませんが、今後も自社開発を継続して、全社の体質が変わるよう努力していきたいですね」(小原氏)
道場を振り返り談笑する
自社製品開発に向け真摯に道場と向き合ってきた姿がインタビューを通してひしひしと伝わってきました。「どっぷりと(道場に)浸かってしまった」と池下氏の言葉通り、徹底的にユーザー目線になり、宿題を何度も何度も繰り返し納得のいく製品開発に結びつけた。道場のカリキュラムを終え、一回りも二回りも成長した池下氏の堂々とした姿が印象的でした。(2020年10月取材)
文章/白谷 輝英
撮影/平山 諭
会社概要
参加者名 | 取締役 星野宣貴氏 開発部部長 小原一洋氏 開発部開発一課主任 池下貴裕氏 他2名 |
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経営者の参加 | なし |
資本金 | 1億円 |
TEL | 03-3750-2221 |
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