事例紹介

国際ディスプレイ工業株式会社事業内容:ムービングディスプレイ・メカデザイン設計製造販売
従業員数:10名
所在地: 東京都文京区向丘2丁目15-5

開発品 ソーラーオーニソプター

開発品 ソーラーオーニソプター

道場参加の理由

感覚に頼らない製品づくりで、自社ブランド確立へ

「事業化チャレンジ道場に、通わせてくれませんか」。
2010年の3月、同社で製品の企画開発を担当していた竹内裕之氏は、当時入社4年目。事業の幅をもっと広げたいと思い、当時上司で企画開発部部長だった渡邊直子氏(現社長)にかけあった。渡邊氏は、いったん迷ったものの、「竹内はアイデアマン。業務のスキマ時間にちょっとしたおもちゃを手遊びでさっと作っていました。
その発想力を活かして事業化チャレンジ道場で学べば、自社ブランド開発の手掛かりがつかめるかも」と考え、参加できるよう上層部へかけあった。

同社の創業は戦後間もない1950年。戦艦の電動模型を製造する会社として、兄弟3人でスタート。当時から、「経営戦略は意識しておらず、感覚的に良いと思ったものを作る体制」(渡邊氏)というが、電池式のスイングモーターの開発によって、店頭POPディスプレイの制作依頼が多数舞い込んできたこともあり、業績は悪くはなかった。だが収益にむらがあるOEM案件頼みではいられないと、室内光で動く「ソーラームーバー」を開発し、特許を取得。この機構を使った「ソーラー招き猫」は、全国の宝くじ売り場に置かれるなど好調な売れ行きとなり経営に安定をもたらした。会社は、この「ソーラートイ」事業に大いに支えられたが、機構の特許が切れ、市場に類似製品が流通し始めたことにより、再び次の一手を打つ必要性に迫られていた。

そこで、2010年度に社長だった伊藤恒夫氏(現相談役)と企画開発部の竹内氏、営業部1名の計3名で「売れる製品開発道場」へ参加。SWOT/3C分析、STPマップ、ペルソナ設定など体系的な開発手法に刺激を受けながら、一度は社内でボツになった「SOLAR ORNITHOPTER(ソーラーオーニソプター)」の企画を、道場の製品開発テーマとして設定した。「どうすれば事業として成立するのか、やったことのない課題に、三者三様にああでもないこうでもないと必死に取り組んでいました」(竹内氏)。

代表取締役 渡邊直子氏

代表取締役 渡邊直子氏

相談役 伊藤恒夫氏

相談役 伊藤恒夫氏

得られた知見

やったことのない事例でも挑戦し、販売まで突き進む

1年目の「売れる製品開発道場」を無事修了し、2年目の「事業化実践道場」への参加を検討している最中の2011年3月に東日本大震災が発生。収益の柱であったOEM事業での受注が激減し、新事業開発にも暗雲が立ち込めた。
だがちょうどそのタイミングで公社の助成金が採択され、予算面での見通しがついたため製品開発を継続できることになり、「事業化実践道場」ではデザインの改良や素材の選定、販売戦略などを徐々に固めていった。

2011年の大阪のギフトショーでは、「ソーラーオーニソプター」の試作品を初めて公開、予想以上の反響があり手ごたえを感じていた矢先、予想もしていなかった壁にぶつかる。
「道場での進捗について社内報告し共有していたつもりが、企画部以外の社員には自分事として受け取ってもらえていなかったのです。『本当にやるの?』『勉強しに通っただけかと思っていた』という意見が多く、改めて社内全員に新規事業を理解してもらうための説得が必要でした」(渡邊氏)。

また、販路の開拓にも頭を悩ませた。これまではOEMで持ち込みの相談ばかりで、新たな販路開拓をする営業経験がなかった。道場の専門家から「製品の良さを理解してくれそうな店を開拓してはどうか」という提案を受け、美術館のミュージアムショップを中心に足を運んだ。「まずは、リニューアルしたての東京都立美術館からスタート。1人5件は回ると決めて行きました。

大阪のギフトショーでお声がけいただいた東急ハンズさんでは、サイエンスコーナーにも置いていただきました。評判が良いと聞いたときは嬉しく、次の営業活動にも熱が入りました」と伊藤氏。一つ一つ課題をクリアしていくことによって、その成功体験が自信を生み、社内の雰囲気やベクトルが揃っていった。

企画開発部 竹内裕之氏

企画開発部 竹内裕之氏

ソーラーオーニソプター「kaku」

ソーラーオーニソプター「kaku」

製品のシリーズ化と継続的な取り組み

「ソーラーオーニソプター」が徐々に市場で評価され売り上げが安定してきた2016年、今度は自社ブランド第2弾となる「amaoto(アマオト)」を発表する。「風鈴のように音がでるものはどうか」という役員の案を元に、竹内氏の「揺れる草のような振り子の動き」という発想を加えた製品だ。
ここで注目したいのは、ソーラーオーニソプター企画時に考えていた「動きにより魅了する高級雑貨」という基本コンセプトは変えずに、材質や動きを変化させたワンランク上の商品になっていることだ。自社ブランドの確立には、商品コンセプトの一貫性、事業の継続性が重要だと道場で学んだからだった。

一方、開発を進めるにあたっては前回の反省を踏まえ、企画会議で社内合意を十分得たうえで決定し、営業部を交えて材料の仕入れ先の調査や販売のための分析も行った。社内プレゼンテーションの場では、営業から製品化を前提とした積極的な意見が飛び交い、第1弾ではあえて低めに設定していた価格も、品質に見合った価格に引き上げた。「むしろ高くてもいいからと営業側に言われました。第1弾で購入してくださったお客様から『これじゃ安すぎるよ』とのお言葉をいただいたこともあり、技術力に自信をもって打ち出しました」(伊藤氏)。

この第2弾を2017年に発売し、このまま順調に進むように思えた新規事業だが、今度は2019年末から流行した新型コロナウィルスが、会社の業績に大きな打撃を与えた。
既存事業の落ち込みが激しく、売上が大きく減少しているこの時期に渡邊氏は社長に就任、一方で竹内氏は時計の機構が重力によって落ちてくるイメージで第3弾(oscilloglass・オシログラス)を構想中だった。どうにか資金を得ようと模索する中で、東京都の「クラウドファンディング活用助成金」の存在を知り、2021年にサイト「Makuake(マクアケ)」に掲載したオシログラスは、大々的な宣伝をする前にサポーターが付き目標金額を難なくクリア。
開発を進める中で「無機質な機構に柔らかな木を組み合わせたデザインは、30代のおしゃれ好きな男性にも訴えるのではないか。ターゲット層が広がるはず」(竹内氏)との目論見通り、従来よりも若い年齢層からの購入が目立ち、店舗を介さずダイレクトなアプローチにも成功した。

「これまでと同様に、対局に位置するような言葉のコンセプトで選べるようにしており、今回は『宵(Yoi)』と『明け(Ake)』なんです。夜と朝の境目で、ちょっと時間を楽しもうっていうようなことなんですけど」と語る竹内氏。消費者目線の遊び心を忘れない姿勢と開発者としての粘り強い志が成功の要因にみえるが、たびたび続くビジネス環境の大きなうねりの中にあっても、何とか新規事業を守り育ててきた経営のかじ取りがベースにあったからだろう。

自社ブランド第2弾「amaoto」

自社ブランド第2弾「amaoto」

自社ブランド第3弾「osilloglass」

自社ブランド第3弾「oscilloglass」

会社はどう変わった?

世界を視野に入れ、さらなる事業拡大へ

東日本大震災やコロナ禍など大きな出来事があった中でも、「動きで魅了する高級雑貨」というコンセプトを体現するラインナップを着実に揃え、ブランドの存在価値を徐々に高めてきた『KOKUSAI DSP.』。
第1弾を発売して数年後に売り上げの伸びが少し下がったものの、第2弾を出したことで第1弾も売り上げが再び上昇、相乗効果を達成している。しかも第1弾の製品は二度の値上げも行っている。これまでの12年間で商品は3、アイテム数は8と少ないが、累計で約16,000個を販売し、売り上げは1億4千万円に上る。
昨年度(2023年度)の売上は会社全体の20%のシェアまで拡大し、存在価値が高まっている。
今年度(2024年度)は、ジェトロ(日本貿易振興機構)の協力も得て、海外進出を果たし、年間で3倍近い売り上げ目標を設定した。海外向けECサイトの立上げや、アメリカの歴史ある見本市「NY NOW(ニューヨークナウ)」への出展、スイスの時計メーカー経由の販売など、着実に販路が広がっている。

事業化チャレンジ道場への参加について、「会社としての視野が広がり、背中を押してもらえた」(渡邊氏)、「共通認識を持てるような可視化した資料づくりが学べ、社内で前向きに話ができるようになった」(竹内氏)、「まさしく土台の共有。製品や販売に対しての解釈の違いもなくなり、皆が同じ方向を向けるようになった」(伊藤氏)と評価するが、3人とも、「外部からのサポートが十分でも、結局がんばるのは自分たち自身なのだという意識があってこそ新たな道は拓ける」と感じたと言う。
「経営者の役割としては、現状を変えようと立ち上がった発案者を一人にしないことも大切。一般的に、新規事業は社内で軋轢や問題が生じます。そこで間に立つ自分が矢面に立ち、変化を推し進めるための調整役を担う必要性がありました」(渡邊氏)。

これまで、新製品の開発には4~5年かかっているが、新規事業をやめるという発想になったことはない。「社員はみな“流行りのものを模倣して簡単に作り上げるのは性に合わない”という職人気質だし、新規事業が大変だと思うよりも、いつも『ここからだ!』と思って挑戦するほうが面白い。私は、新たなプロデューサーになったような気持ちで取り組んでいます」(渡邊氏)と言う。
道場の製品開発で学んだ「顧客視点」の発想を既存事業にも生かしていくなど、すでに次の一手も見据えているようだ。
道場での学びをさらに発展させ、今後の事業の多角的な展開に期待したい。

細心の注意を払いソーラーオーニソプターを仕上げる

細心の注意を払いソーラーオーニソプターを仕上げる

取材後記

「KOKUSAI.DSP」の製品は、遊び心のある動きと洗練された佇まい。見る人を穏やかな気分にさせるので、リピーターが多いというのも頷けます。3.11やコロナ禍での不況時も、一時的な回復を取るのではなく「自社らしさ」を追求し、10年以上という歳月をかけてじっくりブランドを育ててきた経緯には、製品開発への真摯な姿勢が伺えました。また、海外へと販路の舵を切った渡辺社長の決断の根底には、全社員に対する信頼を感じました。(2024年7月取材)

文章/朝光 洋理
撮影/堀内 まさひろ

会社概要

参加者名 代表取締役 伊藤恒夫氏
企画開発部 竹内裕之氏
他1名
※参加当時の役職を記載しております
経営者の参加あり
資本金9,900万円
TEL03-3828-2286
FAX03-3828-2288
URLhttps://www.kokusai-dsp.co.jp/