株式会社島田電機製作所事業内容:エレベーター用押しボタンなど意匠器具製品の製造および販売
従業員数:57名
所在地:東京都八王子市大和田町3-11-1

代表取締役社長 島田正孝氏

“日本一予約が取れない工場見学”に至るまで
エレベーター用の押しボタン、到着灯、表示灯など、オーダーメイド意匠器具製品の設計・製造および販売を手がける島田電機製作所。“当選確率1%、日本一予約が取れない工場見学”とメディアにたびたび取り上げられ、『ボタンで社会をポジティブに』をテーマに誕生した会社敷地内の常設遊び空間『OSEBA』は、今やファミリー層や教育機関を中心に年間2万人以上が訪れる。
「中小企業の弱みは認知度が低いこと。だから、知られていないのにPRをしない方がすごく不自然。知ってもらう努力をしないと、人も情報も集まってきませんから」と力説するのは、代表取締役社長の島田正孝氏。企業の事業展開には『多面的なファンづくり』が必要という考えのもと、あらゆる層に向け、徹底したコーポレートPR活動を行ってきた。B to Bの業態でなぜそこまでやるのかとよく聞かれるそうだが、一見回り道のように思われるその施策が、結果として業績アップにつながると確信している。なぜなら、会社をよりオープンにして企業価値を上げることで、ものづくりも人づくりも一段と高みに引き上がるからだ。
その島田社長が、“単なる下請けから脱却したい”との思いから、事業化チャレンジ道場の前身『ものづくりデザイン道場』に参加したのは2006年のこと。「本当にタイミングが良かったと思います。海外進出を控えていたときでしたが、実際にそこで企画したプロダクトを販売し売り上げを上げてというのではなく、製品開発のプロセスとか新たな考え方を身につけることができました。顧客のわかっているニーズではなくて、潜在的なシーズをどう汲み取るか。その後の海外展開もそうですし、『SHIMAX』という自社ブランドを続けていくなかでも、そこにつながる原点みたいなところがあります」(島田社長)。

「ボタン」をテーマにした遊び空間『OSEBA』

工場内の組立・検査工程。工場見学を前提に、明るく余裕のあるレイアウトで、従業員のオープンマインドも醸成される。

自分なりの“言葉”にしないと伝わらない思い
「道場に参加して痛感したのは、自分以外の考え方にふれることがすごく大事だということ。自分目線でなく、相手側から見るとどうだろうとか、ゴールから逆算して考えるといった、大きな気づきがありました。いわゆる顧客目線、消費者目線に意識が大きく変わりました」と振り返る島田社長。2007年に、市場開拓のため進出した中国では、現地責任者としてさらに自分の考え方や思いを言葉にする大切さを学んだという。「日本にいると当たり前に“日本人同士の感覚”というのがありますが、中国では言わないと伝わらない。生活レベルや価値観の違いもありますが、そのときに、言葉選びとか相手にしっかり伝えることの大切さを知りました」(島田社長)。
中国進出した当時はまだ本社が世田谷にあり、職人気質の従業員を抱える小さな町工場の雰囲気だったという。もちろん経営陣の一人として、更なる成長のために人事制度や品質管理、営業体制など社内体制の整備を進めようとしたが、大きく会社を変えるまでには至らなかったという。転機が訪れたのは2013年。それまでの3倍の敷地面積がある八王子に本社を移転、そのタイミングで帰国し社長に就任すると、一連の社内改革を推進し業績も上がったが、社員も社長自身も何か満足できなかった。「結局、経営の目的は何か、ということです。計画や目標は達成しても通過点に過ぎません。それよりも人を大事にするという原点に立ち返って、皆が『ここで働きたい』と思える会社をつくることの方がずっと大切だと気づいたのです」(島田社長)。
そこから“人中心の経営”を柱とした改革を本格的にスタートさせたが「すべてにおいて、自分の中で思っているだけではダメで、それをちゃんと“言葉”にしないといけないと思っています。しかもその言葉が“オリジナル”であるかどうか。格好いい言葉を使ってもしょうがない。自分の言葉でそれが伝えられるかどうかというのがすごく重要だなと思ってやり続けています」(島田社長)。
今では、人材を「資本」と捉えその価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値につなげる『人的資本経営』が注目されているが、同社のこれまでの歩みは、その“実践版”といってよい。

玄関入口にあるプレート。「島田人」-私たちの5つの個性

ものづくり、組織づくり、ファンづくり
社員一人ひとりが個性を発揮し、自社に誇りを持てる会社にするにはどうすればいいか。
取り組んだのは、新入社員教育。「テクニカルスキルを上げるためには、そのベースにヒューマンスキルがないといけない。つまり人間形成です」と、島田氏自ら講師となって約5か月間の新人研修を行う、通称“島田塾”を開講。全部で20のテーマがあるが「技術的なことではなく、その人自身の意識とか、働く上でのマインド、そういったことを共有する場です」(島田社長)。
社員には、企業活動の拠り所となる価値観を共有するために、クレド(信条)も「CREDO55」として、55個の行動指針を掲げている。「社員に対する私の基本的な考えは、ジョブ型というよりメンバーシップ型で、かなり“昭和”のスタイルに近いかもしれません。ただし、社長と社員、上司部下とか、お客様に対しても、フラットというか対等であることが前提です。忖度が働くと良い仕事ができませんから。それをとっぱらったところで、目指すべきことを共有したい。それが真の“パートナー”になることだと思います」(島田社長)。
そうした考えのもとで、出退勤時に社員が押す「やる気ボタン」、ハンモックやガチャガチャが並びアイデアを出しやすくするオフィス内の「発想スペース」、部署を超え時には取引先とも酒を酌み交わす「社内バー」の設置など、ユニークな取り組みを次々と打ち出す。結果、社内には、楽しみながら働き、社員の個性を引き出すための仕掛けがいたるところにある状態に。2018年に始めた工場見学も、当初は対応人数が限られていたため、それが“日本一予約が取れない”という評判に転化した。
「何かずっとコミュニケーションを取り続けてきた感じですね。ただ、それはその輪を会社の中だけでなく、社会にも広げていったことが大きかったと思います。緩やかにつながっているというか、それが結果としてウチを押し上げてくれているのだと思います」と話す島田社長。

エレベーターのボタンを模した「やる気ボタン」

オフィス内の「発想スペース」

100年企業が作り出す働き方の新常識
今後の事業活動は、「ものづくり」「組織づくり」「ファンづくり」の3つの軸でさらに“人中心の経営”を進めていくという。
「『ものづくり』では、自社ブランドが当たり前に使われているような状況にしたい。エレベーター以外では、建築の内装部品分野も手掛けていきたい。『組織づくり』では、“管理しない組織”を確立する。そのために、しっかりとビジョンを持ち、そこを目指すために何が必要かということを皆で共有し、仕組みや仕掛けを作る。それを共通言語化しルールを作ることで、私が指示しなくても自立・自走できる組織にしたい。最後の『ファンづくり』は、自分たちがやっているこの形で、中小企業の働き方の新常識を作りたい。もっと言えば、日本企業で働く人を元気にしたい。日本企業のエンゲージメントを上げて、働く人が元気になれば、日本も絶対変えていくことができると思います」(島田社長)と力を込める。
まだまだ道半ばですがと前置きしつつ、見据えるのは2033年、創業100周年だ。折しも、2025年7月期で、売上高が前期比約3割アップの12億円を超えた。エレベーター用のボタン等特注品の国内シェアは6割を維持し、価格競争に巻き込まれにくい状況になっているのが強みだ。営業利益率も大手並みに高く、“稼ぐ力”もついてきていることは、これまでの戦略が間違いないことを証明している。「これから5年後に売上高12億円を15億円にすると言っても、皆のマインドはあまり変わらない。でも100周年に100億円を目指すって言ったら一気に変わるじゃないですか(笑)。働き方のロールモデルになるとか、新常識を作るという意味では、大きくならないと社会に与えるインパクトが少ないですから。本当に目指すのであれば100億円ですかね・・・」と冗談まじりに続ける。
最後に道場については、「道場に参加したときに、売れなきゃ意味がないみたいな話があったような気がします。あえて反発したくなるタイトルをつけていると思うのですが(笑)、売れればいいだけとは思わない。ただ、そうだよねという部分もある。言うのは簡単だけど、売れる製品を作るのはすごく難しい。こちらが作りたい製品もあるし、そのバランスが大切ですね」(島田社長)。
「自分だけで考えるのではなく、外から知識を得て、それをきっかけにして自分なりの考え方を持つことが大事だと思います。道場に行くことで売り上げが上がると思ってはだめ。そんなに簡単に売り上げなんか上がらない。そこに行くまでにはプロセスがあって、そこをちゃんと理解することだと思います。講師の先生たちではなく、やるのは自分という気持ちで参加すべきではないでしょうか」(島田社長)とアドバイスをいただいた。

(株)島田電機製作所の「ファンづくり」

「中小企業の働き方の新常識を作りたい」と語る
島田正孝社長

年間2万人以上の来場者があるという『OSEBA』。誕生したきっかけは「子どもがボタンを押したがって困っている。工場見学させてもらえないか」という一本の電話からだったといいます。そのような問い合わせが来ること自体驚きですが、それを常設のテーマパークにしてしまう思い切りの良さ、行動の速さには目を見張るものがあります。社内にある100周年までのカウントダウン時計は刻一刻と進んでいます。カウントがゼロになるまで、どのような驚きを見せてくれるのか、とても楽しみです。(2025年10月取材)
文章/池田 雄悟
撮影/堀内 まさひろ
会社概要
| 参加者名 | 代表取締役社長 島田 正孝氏 |
|---|---|
| 経営者の参加 | あり |
| 資本金 | 1200万円 |
| TEL | 042-656-1401 |
| FAX | 042-656-1402 |
| URL | https://www.shimada.cc/ |



